映画の話 3


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つづき
映画の話 - RAW ROAD

映画の話2 - RAW ROAD

 


1位「サウルの息子

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1944年10月、ハンガリー系ユダヤ人のサウル(ルーリグ・ゲーザ)は、アウシュビッツ=ビルケナウ収容所でナチスから特殊部隊“ゾンダーコマンド”に選抜され、次々と到着する同胞たちの死体処理の仕事に就いていた。ある日、ガス室で息子らしき少年を発見した彼は、直後に殺されてしまったその少年の弔いをしようとするが……。


鑑賞したのは昨年の2月だが、冒頭10分で「ああ、これは今年のベスト1だわ...」と確信した作品。理屈ではなく、生理的な感覚に追い込みをかけてくる映像と音響は圧巻。映画が発明されて120年、まだこんな手法があるのかと驚かされた。楽しい映画では全くないので、見るにはそれなりの気合が必要。

ユダヤ人が収容所に連れてこられるところから映画は始まる。「これからシャワー浴びてもらうから服脱げや」とドイツ兵の命令で全裸にさせられて、“シャワー室”に押し込められるユダヤ人たち。収容が終わり扉が閉められると、主人公であるサウルら「ゾンダーコマンド」たちは、脱ぎ置かれた衣類をテキパキと回収していく。服の持ち主はもはやそれらを着ることはないからだ。

処刑にかかる時間は10分ほど。10分間、苦しみ悶えながら死ぬことになる。処刑が終わるとゾンダーコマンドの仕事の本番だ。死体を運び出して、血と排泄物に塗れた床と壁をきれいにして、ちゃんと“シャワー室”に見えるように清掃する。次に来るユダヤ人を怖がらせないように…

この間、ほぼ主人公サウルのドアップで展開する。最近の映画では珍しいスタンダート・サイズ(4:3)の狭い画面一杯にサウルの顔がアップで写しだされ、背景は少ししか見えない。しかも40mmレンズによる極端に浅い被写界深度のせいでボケボケ。死体が転がっているおぞましい背景は、意図的に薄っすらとしか見えないようにしている。

映像だけで十分息苦しいのに、そこにドイツ兵の怒号、何かの機械音、多言語入り混じるガヤなどの音響効果が加わる。圧迫感が半端ではない。つまり観客は収容所内を追体験しているかのように感じるんですね。人はあまりに悲惨な状態に置かれると、精神を守る為に思考を停止、感覚をシャットアウトして、嫌なものは見ないようにするらしいです。

ゾンダーコマンドについては下記の本が詳しい。映画には本と同じようなシーンが出てくるので、何かしら参考にしてるのは間違いないかと

私はガス室の「特殊任務」をしていた

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 ナチス関係の書籍や映画を見ると、ユダヤ人抹殺に如何なく発揮されるドイツ人の知性と合理主義にいつも戦慄させられる。ホロコーストは頭のおかしい野蛮な独裁者が狂気に駆られて起きたものではない。ドイツという当時の工業先進国が、その高度な国家資源と教育レベルの高い人材を投入して、冷徹に、計画的に実行されたもの。人類史上最大の犯罪と言われる所以ですな。

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